できれば映画に浸っていたい。。

鑑賞した映画のレビューや解説を勝手気ままに書いていきます。

意外と硬派で深い、、福山雅治主演の新作映画。

「SCOOP!」(2016年)


【映画情報】「SCOOP!」〜広尾のごきげん空模様#80〜

 

【あらすじ】

ある出版社の雑誌(写真週刊誌)「SCOOP!」の編集部が物語の舞台。

主人公はフリーカメラマン”都城 静(みやこのじょう しずか)”。ミドルエイジのちょいワル(?)アウトロー彼は、元々この雑誌社所属のカメラマンだったが、今はフリーとして気ままに有名人のスキャンダル写真を撮り続けている。

静の潜入取材には、親友でもある情報屋”チャラ源”の献身的な協力があった。具体的な背景は判らないが、チャラ源は過去に静を庇うばかりに、収監されてしまった経緯があるよう。故に、静は常に彼の動向に気をかけ、心身共に不安定なチャラ源を案じるのだった。

 

ある日、この編集部の”事件班”を預かる副編集長”横川 定子”の命により、静は新人女性記者”行川 野火(なめかわ のび)”の教育係を無理矢理押し付けられる。(どうも、静と定子の間には言い知れぬ過去がある様子。)

野火は静に随伴しての取材活動を”慌ただしく”始める。しかし、元々ファッション記事の編集者に憧れていた野火は、怪しげなキャバクラに潜入しての”隠し撮り”など、ダーティーな手法での取材に辟易する。

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雑誌「SCOOP!!」は、ここのところ事件記事が精彩に欠け、売上部数は低迷していた。辛うじてセクシータレントのグラビアページにより発行部数を確保していた状況の中、グラビア班の責任者である(もう一人の)副編集長”馬場”と、事件班の”定子”の間には日常的な”軋轢”が。

ところが、事件班の新コンビ<静&野火>の、”意外や”絶妙なコンビネーションにより、際立ったスキャンダル記事を連発する。それにより売上部数は急激に伸び始めるのだった。

この頃には、野火の気持ちにも変化が現れていた。”ちょっと危険な”スキャンダル取材の刺激と目に見える大きな成果に、次第に”やり甲斐”を感じ始めていたのだ。

 

そんな状況変化の中、社会性の強い事件記事の復活を志向していた定子は、”ある計画”を企てる。最近逮捕された”ある大事件の凶悪犯”、その現場検証の様子を、”静&野火コンビ”を主軸にスクープしようとしたのだ。あくまで”気ままな”有名人スキャンダルに固執する静は、定子の提案を拒むのだが。。

 

<キャスト>

福山 雅治 (都城 静)

二階堂 ふみ(行川 野火)

リリー・フランキー(チャラ源)

吉田 羊  (横川 定子)

滝藤 賢一 (馬場)

<スタッフ>

大根 仁(監督・脚本)

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【みどころ】

この映画、福山雅治が主演であることと、タブロイド広告風のポスターやチラシなどから、あたかもミーハー系作品なのかというイメージを持たれがちな感じがするが。

 

実際鑑賞してみると、なかなか硬派で奥行きのあるヒューマンドラマであることが判る。

ロバート・キャパの引用など、”写真”あるいは”カメラマン”に関するに描写については、少々ベタ過ぎな印象は否めないが。まぁ、この程度はご愛嬌の範囲ということで(笑)。

マスコミやジャーナリズムなどについての社会性やあり方よりも、この物語の登場人物たちが紡ぐ人間模様にフォーカスした映画と言える。

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まず、主人公の”静(しずか)ちゃん”演じる福山雅治の醸す、中年のカッコ悪さが最高。それでもイケメン。それでも嫌味がない。 

”情けなさ”という点では、ちょっと「海よりもまだ深く」の阿部寛を彷彿とさせる面もあるが、こっちの方がもっとシャープ。それでも、なんだかカッコ悪い(笑。

これがダンディズムってやつなんだ、きっと。

 

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かつてのATG映画に登場した、ジョニー大倉原田芳雄のキャラをイメージさせるようなリリー・フランキーの存在感も素晴らしい。その、なんとも不安定な佇まいは、哀しい結末を予感させる伏線となっているのは序盤から判るが、まさかあんな形で回収するとは、、、脚本も巧み。よく出来た物語になっている。

 

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そして、滝藤賢一による迫真の演技!!

どちらかと言うと”イヤなヤツ”を演じることが多い印象の役者さんなので、あまりイメージがよくなかった(笑)。物語の序盤は、それまでのイメージどおりのキャラで登場するのだが。。

いやあ、泣かされた 

滝藤さんごめんなさい。見直しました。

というか、これまでも”イヤなヤツ”を”イヤなヤツ”に演じきってきたのだからこそ、名優なのですね。

 

とにかく、登場人物ひとりひとりのキャラが魅力的なだけではなく、主人公をめぐる”お互いの関係性”に深みがあり、共感してしまう。

だからこそ、ある場面では温かみを感じ、ある場面では痛快な気分を味わい、そして、ある場面では深い哀しみに暮れてしまうのだろう。

 

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二階堂ふみ演じる新人記者の、次第に価値観が変化していくサマも面白い。それは主人公に対する愛情の芽生えと表裏一体なのだが、その心の変化をあらわす過程が実に細かやかに描かれていて、全く違和感を感じなかった。

 

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また事件班の副編集長”定子”とグラビア班の副編集長”馬場”の<対立の構図>が俄然この映画を面白くしている。これが、前半で得られる事件班のカタルシスを増幅し、さらには、後半に魅せる感動のシークエンスをよりくっきりと際立たせることで、観客の涙腺を強力に刺激してくるのだ。

 

そして、そもそも”観客たちが想像する”役者たちのイメージや物語の展開を先回りして、確信犯的に裏切ってくる物語の建て付けも刺激的。役者の演技面だけでなく演出やストーリーの面でも、登場人物の”人間像”を浮き彫りにしている。

 

まさに脚本の妙と、役者陣の好演が完璧に噛み合って生まれた傑作と言えるのではないだろうか。