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できれば映画に浸っていたい。。

鑑賞した映画のレビューや解説を勝手気ままに書いていきます。

激しい喪失感との対話。映画『退屈な日々にさようならを』について

ヒューマンドラマ コメディー ファンタジー 友情 恋愛 映画 社会派ドラマ 青春

『退屈な日々にさようならを』(2016年)

  監督・脚本・編集:今泉力哉

 プロデューサー:市橋浩治

 配給:ENBUゼミナール

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映画『退屈な日々にさようならを』予告編

  第12回トランシルヴァニア映画祭(2013年)にて、最優秀監督賞を受賞(「こっぴどい猫」)した今泉力哉監督の最新作。

前作「知らない、ふたり」は若者たちの”恋愛”をめぐる群像劇だったが、本作は”死”と”創作”をテーマとした、やはり若者たちの群像劇となっている。

【ストーリーについて】

東京と福島を舞台に描かれるヒューマンドラマ。大きく分けると2つの(繋がりある)物語から構成されるセミ・オムニバス形式の構造を持つ。

そしてこの物語は、3つの導入部から始まる。

 

導入①新進映画監督の苦悩

若手映画監督の梶原は劇場用作品の制作を生業としているが、それだけでは”食べていく”ことが出来ない。あくまで”映画制作”に係る仕事にこだわる彼は、同棲中の彼女の”稼ぎ”に幾許か依存している様子も見え隠れする。

そんな彼女からの”押し”に屈するように、ある日ひょんなことで知り合った男から引き合いのあったMV(ミュージックビデオ)の制作を引き受ける。

ところが撮影前の企画段階で、アーティストの所属事務所側と意見の食い違いが露呈してくる。あくまで自分の創作方針に固執する彼は、遂にはこの仕事を断ってしまった。

ところが、その”キャンセル”をきっかけに梶原は思わぬトラブルに巻き込まれていく。。

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導入②造園会社の廃業

福島で造園業を営む今泉太郎は、(業績不振のためか)亡き父親から引き継いだ会社をたたみ、廃業することを決断する。

数日後の打ち上げで、太郎は唯一人残っていた作業員・清田の再就職が、東京で決まったことを知る。実は東京での新生活に憧れ、密かに清田への想いを寄せていた太郎の妹・ミキ。太郎はそんなミキを気遣って、清田に彼女を一緒に連れて言ってくれないかと頼むのだった。

数年後、結婚して妻とふたり暮らしとなった太郎の下に一本の電話がかかってくる。それは18歳の時に失踪したまま消息を絶っている双子の弟・次郎の同棲相手を名乗る女性からだった。。

 

導入③ある若手監督の死

前述の映画監督・梶原の先輩である山下。彼もまた、新進の映画監督だった。ところが、ある事件をきっかけに生きる希望を失くした彼は、同棲中の彼女の目の前で自殺を遂げる。理由はわからないが、彼女も山下の意思を受け入れて、彼の死を見届けるのだが。。

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【感想・解説・みどころ】

ジャンルは違えど、「パルプ・フィクション」はじめタランティーノ作品の数々を彷彿とさせるような、編集の妙を堪能できる作品。最初は登場人物の関係性やセリフの意味合いなどが不鮮明な状況で始まるが、次第にそれぞれが繋がりだし、物語の深みを増していく。

 

また、全体的にセリフの応酬がコミカルで、随所に多くの”笑い”が散りばめられている。ある意味広義のコメディ映画とも言えるのかもしれない。

しかし一方で、言い知れぬ”不穏感”を纏ったストーリーと演出に翻弄される面もあり、サスペンスフルな展開も楽しむことができる。ところが、前述のユーモラスな雰囲気が”あくまで”この映画全体を包み込んでいるため、決して暗くはならず、観客に変な緊張感を強いることもない。

 

さらに本作は、(群像劇だけに)セリフを有する登場人物が多く、それぞれに豊かなキャラクター設定が為されている点も大きな魅力のひとつと言える。今泉監督による演出の妙か、あるいはキャスティングの妙か、演じる俳優たちの演技もまた素晴らしい。

この映画はENBUゼミナールという映画専門学校主宰による”ワークショップ”企画の作品として誕生した経緯を持つ。そのせいか、演ずる俳優陣は現役の演劇科の学生含め新人や無名の(もしくは未だ有名とは言えない)人たちが多い。しかしながら、彼らの素晴らしいポテンシャルによって、そのクオリティが支えられている映画とも言える出来栄えとなっている。


映画「退屈な日々にさようならを」ショートレビュー

 

 <本作を彩る俳優たち(※敬称略)>

 内堀太郎

造園業を営んでいた主人公の”太郎”、そして双子の弟”次郎”を一人二役で演じる。

個性豊かな本作の登場人物の中にあって決して濃いキャラクターではないが、ハリウッドにおける”マーク・ラファロ”のごとく、”演じている感じが全くしない”自然な佇まいが素晴らしい。また、どこかアバウトでポジティブな<兄>とどこまでもネガティブな<弟>を抑えた表現で演じ分けている巧みさも垣間見える。

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松本まりか

双子の弟・次郎の美しい恋人であり同棲相手 、”青葉”を演じる。

見た目も美しいが、声も可愛い。死語かもしれないが 、本作のマドンナ的存在。

また、この映画の根底にあるテーマ(後述)の語り部としての役割も果たしている。一方で、ルックスとは裏腹にかなり間の抜けた(あるいはぶっ飛んだ)セリフを放つ”ちょっとズレた”意外に難しいキャラを演じきっている。

(ネット番組では不埒な説明をしてしまい、ごめんなさい!)

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 秋葉美希(みつき)

太郎と次郎の妹”ミキ”を演じる。

彼女の演じるキャラは強烈。序盤で見せる女子高生時代はいたって普通だが、上京後が。。!

ネット番組(「広尾のシネマ☆JACK」金曜日正午すぎ〜Ustreamにて配信中)出演時は名前が頭に浮かばず、喋ることができなかったのだが、その独特の”毒入り”キャラは、まるで楠美津香(※モロ師岡の奥さん)を彷彿とさせるよう。本作の”コワイ”部分を担うまさにキーマンであり、ブラックユーモア面での要とも言える重要人物(笑)を見事に演じ上げている。

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↑楠美津香(笑)

 

猫目はち

太郎の近所に住む幼なじみ(?)で、たまに料理を持ち込むなど世話を焼き、のちに太郎と結婚する”千代”を演じる。彼女の演じるキャラも濃い!!その、真顔(まがお)でいると少々怒っているように見える彼女の佇まいが、本作の演出にもたらした効果は計り知れないのではないだろうか。終盤の緊迫した場面、そこから飛び出す”あまりに意外な”セリフは劇場内の大爆笑をさらっていた。

解りやすく言えば、”藤山直美”的キャラの持ち主。しかも映画『団地』で見せた藤山直美の演技を完全に凌駕する勢いなのだ。

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りりか

前述した千代の妹でミキの親友、”さほ”を演じている。廃業後(つまりミキの上京後)も、ちょいちょい姉夫婦と交流をしているという設定。

物語の重要な部分を担っているわけではないが、実は、数多い登場人物を結ぶ”狂言回し”的な役割を果たしている。

そして、もうとにかく可愛い(笑)。のん(元・能年玲奈)と小松菜奈を足して2で割ったような”透き通った美しさ”は、本作に一種の清涼感をもたらしている。

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矢作優

本作のサブストーリーにおける主人公とも言える映画監督”梶原”を演じる。

この役はおそらく今泉監督自身を最も強く投影したキャラクターと(勝手に)解釈している。特に友人である映画監督のワークショップ作品上映会に参加するクダリは、監督の日常における”鬱屈した想い”と創作活動への”モチベーション”を象徴した重要なシークエンスに見えてならない。

演じる矢作優の演技もこれまた素晴らしい。劇中、ちっとも笑わない彼のキャラクターが、実は本作の”笑い”の重要な要素を担っているという心憎さ。(ホントに笑わせていただきました。大爆笑。)特にミキ役・秋葉美希との掛け合いから生まれる”ブラックな笑い”は秀逸。本作のキャッチーな部分を一手に担っていると言っても過言ではない。

さらには、ラストの”シュールで可愛らしく粋な締め括りとなるシーン(カネコアヤノが一人で演じている場面)”は、彼のここまでの演技が”おっつけ”として効いているからこそのクオリティと断言したい。

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<真のテーマ>

終始、笑いと少々のサスペンスを纏ったエンタテインメントとして観るものを魅了する本作だが、どこか得も言われぬ”哀切感”のようなものを残していく。

それはきっと、”太郎の暮らしの場”が被災地・福島を舞台としていることと無関係ではない。終盤、太郎(今泉家)の自宅の座敷で繰り広げられる登場人物たちの応酬に、それは凝縮されている。

被災地の人々が目の当たりにした、あまりにも”唐突で激しい喪失感”。彼らは日常生活の営みの中で、一体どう自分の気持ちとの折り合いをつけてきたのか。その残酷なまでにリアルな”心の記録”が、この映画には刻まれているのに違いない。

 

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