ニキータ(1990年)
物語の世界において、なんとも不条理な運命に翻弄され、もがく主人公の有り様は実に切なく哀しく、そして美しいものだ。
この映画の主人公、ニキータと名乗るその少女は、冒頭で情状酌量の余地が無いほどの重大な罪を犯して警察に捕らえられる。
それも、はずみでやってしまったようなレベルではない。狂犬のごとき粗暴なキャラクターの輩として彼女はスクリーンに登場する。
そんな主人公ニキータは、彼女の天性ともいえる”殺傷能力”に目をつけた政府に戸籍を抹消され、直轄の暗殺者に仕立て上げられる。
冒頭で警察に捕まらなくとも、いずれは掃き溜めのような環境で犬死にしていてもおかしくなかった人物だけに、この状況は必ずしも不幸とは言えない。
ところが、”闇の”暗殺者学校を卒業し、シャバでの生活を始めた彼女は、たまたまスーパー出会ったレジ係の青年と恋に落ちる。そしてこの恋物語こそが、前述した環境を実に”不条理なもの”へと変化させてしまう。。
彼女の恐ろしい秘密を察した彼氏。その気遣いと愛情に満ちた言葉に、壁一枚隔てた向こう側で銃を握りしめながらも、思わず涙を拭うニキータの姿が忘れられない。
自らの深い感情と運命に翻弄され、もがき苦しむそのサマは、フランス映画史に大きな足跡を残すほどの”美しさと切なさに”に満ち溢れている。