いかにも”嘘っぱち”だが、どこかリアルで魅力的な映画たち。
ふきげんな過去(2016年)
【あらすじ】
つまらない日常に辟易し、なんとなく毎日を過ごす女子高生・果子(二階堂ふみ)が主人公。彼女はエジプト風豆料理屋「蓮月庵」を営む祖母サチ(梅沢昌代)、母サトエ(兵藤公美)、無職(?)の父タイチと共に暮らしている。
ある日、果子と家族の前に”18年前に死んだはずの”伯母・未来子(小泉今日子)が現れた。未来子はその昔、爆破事件を起こし警察に追われていたらしい。何かの出来事(事件?)で死んだと思われたのをいいことに、どこかに潜伏していたという。また、過去タイチとの間にただならぬ関係あったのではないかと、果子は疑い始めるのだった。
家族は果子の部屋に未来子を居候させようとするが、どこか横柄な未来子の態度も気に入らず、納得がいかない。
ところが、喫茶店で暇つぶしに眺めていた”謎の青年”と未来子の関係性が見え隠れする中、果子は”謎めいた未来子の生き方”にほのかな憧れを抱くようになる。。
【みどころ】
これは私のような妄想好きにとっては大好物な一本。
終始、穏やかに進行していく物語であるにも関わらず、なんか凄まじく壮絶でサスペンスフルな物語の後日譚的な体の感触にワクワクする。(しかし、その前日譚は語られず仕舞い 笑。)
それでいて不穏な空気など一切醸し出さずに、純然たるコメディとして成立させているのも凄い。そう、不穏どころか”シリアスさ”のカケラもないのだ(笑)。
キホン、登場するオトナたちは皆どこか”嘘つき”(笑)。言ってることの一言、一言があてにならない。そのせいかどうかは判らないが、全編とおして繰り広げられる”会話”がいちいち可笑しい。実はここで、主人公の従姉妹カナ(山田望叶)の存在が効いている。オトナたちが皆どこか変な分、コドモたる彼女はいたってマトモ(笑)。オトナたちへの真っ当な問いかけが実にシニカルで、漫才におけるツッコミの役割を果たしている。
そうそう、セリフどころか(主人公の心情など様々な設定ふくめ)映画全体が嘘っぱちなのだ。それでいて刺激的で面白い。
そういう意味では「ロブスター」を連想させる面もあるが、こっちの方が徹底しているし、振り切っている。少なくとも”笑い”においては圧倒的に成功しているのだ。
ロブスター(2015年)
【あらすじ】
結婚することが義務化された架空の社会が舞台。独身者はある”ホテル”に集められ、45日以内にパートナーを見つけることを強要される。もし見つけられなければ、予め自分で選んだ動物に姿を変えられ、森に放たれてしまうのだ。
独身となった主人公デヴィッドも、そのホテルに送り込まれる。彼は”もしもパートナーを見つけられなかった場合に変えられる動物”として”ロブスター”を希望するのだった。理由は寿命が永いかららしい。
ホテルでの新生活は、奇妙なルールに縛られ、さらにはパートナーを見つけたいあまりに異常な行動や考え方に固執する”面々に囲まれ、息の詰まるような日々だった。
ホテルでの生活や価値観に嫌気がさし、命からがら森へ脱出するデヴィッド。そこには、パルチザンのごとく潜伏する独身者のグループが。。
【みどころ】
極限の状況で、人は絶対的な愛情とか関係性を何をもって担保しようとするのか、この映画はそこにあえてシンプルな”ルール”を設定している。
身を置く社会体制がどうであれ、結局は”自分で決めた筈の”そのルールに縛られ翻弄される登場人物たち。
これは、そんな彼ら(彼女ら)をブラックに笑い飛ばす映画だと言えるだろう。
本作は、”結婚しなければならない社会”と”異性と付き合ってはならない社会”という、おそらく欧米(特にフランス語圏)の若者層のほとんどにとっては、どちらもイマイチな社会が舞台の前提となっている。
これは現実には絶対にありえない社会なのだが、実は、それが極めて現実的な社会の特徴をデフォルメしたものであるという可笑しさを孕んでいる。
主人公は、結局どちらの体制にも馴染めないで逃げ出す。それでも、前述した”見えないルール”に縛られ、実に不条理な行動に出ようとする。端から見れば、それが最も彼”個人”には不利益な筈だという矛盾が、なんともブラックな笑いを呼び起こすのだ。