映画にみる、出逢いと人生。「ベストセラー」と「レッドタートル」について。
「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」(2016年)
【あらすじ】
1920年代、ヘミングウェイやフィッツジェラルドなどアメリカ文学を代表する著作を手掛けた名編集者マックスウェル・パーキンズ(以下、マックス)と彼によって発掘された天才作家トマス・ウルフの出逢いと別れを描いたヒューマンドラマ。
ある日、編集者マックスのもとに、トマス・ウルフと名乗る青年の原稿が”彼のパトロンを通じて”大量に持ち込まれる。原稿が膨大な分、一つの場面に大量の修飾表現が盛り込まれた”クドイ”内容が嫌われてか、既に多くの出版社で断られたあげくのことらしい。
原稿に目を通したマックスはトマスの類稀なる才能を見出し、出版を約束する。その膨大な原稿の割愛すべき箇所をふたりで検討し、大幅なページ削減を行うことを条件に。
マックスはトマスを父親のような愛情を以って受け入れ、熱心に編集作業を進めた結果、その処女作「天使よ故郷を見よ」は瞬く間にベストセラーに輝く。
そしてトマスは、さらに膨大なページ数に登る2作目の原稿を書き上げ 、マックスに渡すのであった。週末、昼夜を問わず、ふたりはその編集作業に没頭し、2作目「時と川の」が完成する。
この2作目もベストセラーとなり、トマスは名実ともに一流作家の仲間入りを果たすが。。
【みどころ】
舞台劇にはない、映画ならではの楽しみ方のひとつ。それは、役者の”抑えた”演技を味わえることではないかと思う。
本作は、まさにそんな楽しみ方を堪能できる一本。出演している役者も何気に豪華だが、どの演技もほどよく抑えられていて、それでも登場人物の感情や佇まいが強烈に表現されている。
特に、主人公のひとり編集者マックスウェル・パーキンズ演じるコリン・ファースの演技は”超”印象的。一見、朴訥としていながらも、ジュード・ロウ演じる作家トマス・ウルフへの溢れんばかりの愛情を、そう多くはないセリフと微妙な表情の変化で表現し切っている。
特に忘れられないシーンが2つ。序盤、処女作の編集作業を二人が始めた頃、トムがマックス宅に初めて招かれるシークエンスの中で。食事のあと、”家族に失礼がなかったか?”と気にするトムをみつめるマックスの表情。目尻の筋肉(?)の微妙な動きで、トムへの深い友情(擬似的な父子愛とも言える)を表現してしまっている。
2つ目はラストシーン。ネタバレになりかねないのであまり状況は言えないが(笑)。
ある手紙に目を落としたマックスが思わずとる”さり気ない所作”。これが私の涙腺を破壊してしまった。
ジュード・ロウの演技も、溢れる言葉の洪水に自ら翻弄されるトマス・ウルフを表現尽くしていて素晴らしい。過去作「クローサー」での”別れ”のシーンを彷彿とさせるような”自分の感情を制御しきれず困惑する”男のサマが実にリアル。
また、主人公それぞれの”伴侶”の存在も、ふたりの愛情の深さを描くにあたり重要な役割を果たしている。トマスのパトロン”アリーン”演じるニコール・キッドマンは「虹蛇と眠る女」での終盤を思わせるようなキレっぷりだし、マックスの妻”ルイーズ”に扮するローラ・リニーは相変わらずの抑えた演技で静かなる嫉妬(実はこれが一番コワイ 笑)を体現している。
さらに、この映画はスイングしたジャズの調べも素晴らしい。おまけに、中盤にあるジャズバーでのシーンでは、この作品が音楽映画の側面を持つことまでも観せてくれるのだ。
「レッドタートル ある島の物語」(2016年)
【あらすじ】
嵐のおとずれ。乗っていた船が難破したせいか、ひとり荒波に揉まれる青年。そして”ある無人島”に流れ着く。
彼は島からの脱出を図り、竹林で倒れた”竹”などを材料にイカダを作る。
そのイカダに乗って大海原に繰り出すものの、海中から大きな衝撃を受けてイカダは崩壊。青年は仕方なく島に戻る。
その後何度か、さらに頑強で大きなイカダを作り脱出を試みるも、同様の衝撃を受けて失敗を繰り返してしまう。そして、その衝撃の正体が巨大な”アカウミガメ”によるものだと知る。
落胆して、島での生活を続ける青年。だがある日、あの”アカウミガメ”が島に上陸する様子を目撃した若者は、激昂してカメに暴行を加えた挙句、甲羅を裏返しにして身動きが取れないようにしてしまう。
カメは最初ジタバタするものの、自分の身を反転させることができず衰弱していく。遂には、力尽きたのか全く動かなくなってしまった。その様子を見た青年は流石に良心の呵責に苛まれたのか、カメに水を与えるなどするが一向に動き出す様子が見られない。
ところがある日、青年が目を離した隙にカメは甲羅だけを残して姿を消していた。そして甲羅の中には、何故か気を失った若い女性が横たわっていたのだが。。
【みどころ】
「岸辺のふたり」で、アカデミー短編アニメーション賞を獲得したオランダのマイケル・デュドク・ドゥ・ビット監督による長編デビュー作。
まるで和紙に描き落としたような絵がなんとも美しい。この映像を切り取って美術展が開けてしまいそう。 派手さは無いが、光と色彩の豊かさに驚く。
また、人物や動物たちの動きはおそろしくリアル。そして雲の動きや海の浅瀬など、ただ単に写実的なだけではなく、アニメなりの美しさを自然界から絞り出したような印象を受ける。
そこで語られるストーリーは極めてシンプルで美しい。物語の骨格を動かすために最低必要な筋肉だけを残し、あとは全て削ぎ落としてしまったような飾りの無さ。
生きていくということは何なのか、愛するということは何なのか。時に優しく、時には残酷なほどに厳しい自然環境の中、まったくセリフ無しに語られていく。
そして、日本古来の寓話(むかし話)の韻を踏んだような物語世界も、観るものの心を掴む所以なのかも知れない。あの暖かくも切ないラストシーンは、意外に「リービング・ラスベガス」のラストを想起させるのだ。
レッドタートル ある島の物語/マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット作品集 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
- 発売日: 2017/03/17
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (1件) を見る