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罪悪感なき者への深き怨恨(2) 映画『手紙は憶えている』について ※ネタバレなし

手紙は憶えている』(2015年)

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【あらすじ】

90歳のゼヴはユダヤ系アメリカ人。今は介護老人ホームで静かに暮らしている。

彼は数日前に妻ルースを亡くしながらも、一晩たつと彼女の死すら忘れてしまうほど記憶力が衰えていた。

 

ある日ゼブは、同じホームに住む親友マックスに呼ばれ、彼が書いた手紙を渡される。そこには、かつてアウシュビッツ強制収容所に共に収監されていた彼ら共通の仇であるナチス将校への”復讐の手順”が詳細に記されていた。その将校の名は”ルディ・コランダー”。彼は戦後、なんと”ユダヤ系”を装ってアメリカへ移住し生き延びていたのだ。

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ゼブはかねてより妻が亡くなったら、”復讐”を実行にうつすとマックスに伝えていたらしい。それすらも、今となってはゼブ本人の記憶には”おぼろげ”となっていたのだが。そんな彼のために、マックスは計画を手紙にしたためたのだと言う。

 

マックスは”ルディ”と思しき容疑者を4名にまで絞っていた。今は車椅子生活を余儀なくされているマックスに替わって、同朋のゼブに「4名からの”犯人”の絞り込み」と「”復讐”の実行」を改めて促したのだ。

ゼブは早速、手紙どおりに行動を開始する。老人ホームを抜け出した彼は先ず、銃砲店で”実行”に使用する小型拳銃を購入するのだが。。

 

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【感想・みどころ】 

ケビン・ベーコン主演の「コップ・カー」では、年端もいかぬ少年がピストルを扱うサマが怖かったりしたが、認知症を患った本作の主人公、老人”ゼブ”がそれを扱うサマはもっとコワイ。特に序盤では、主人公とピストルとの”間合い”のようなものが、スリリングな展開をもたらしている。

 

さらには、認知症の老人という”独特な主人公のキャラ設定”により、従来ではSF系の物語(例えば「トータル・リコール」など)でしか為し得なかったドラマ性を、リアルな現代劇に織り混ぜることに成功している。

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因みに本作の宣伝でうたわれていた、いわゆる”衝撃の”結末は、予告編を観ただけでも何となく予測できていたので、特に驚かされた事はなかった。但し、だからと言って本作がツマラナイということにはならない。
むしろ鑑賞後に、本作のストーリーを思い返せば思い返すほど、如何にこの映画に込められたユダヤ人のナチスに対する怨恨”が深いものかということを感じさせられる。

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現代における大きな社会問題の一つは、中東や欧州を中心とした”止まらない地域紛争”だ。その点を踏まえて、昨今のナチスをテーマに扱った映画には、”負の連鎖”を食い止めるための提言を込めたものが数多く見受けられる。

しかし裏を返せば、これは「愛する家族を殺した仇を見逃せよ」と言わんばかりのニュアンスにも取れる。

 

(特に欧州で支配的になっている)そんな風潮に対して、少なからず”違和感や拒絶反応を示す者”も実際にはいるのではないだろうか。そんな”怒り冷めやらぬ人々”に向けた架空のアンサー。それがこの映画の裏テーマなのかも知れない。

 


広尾のシネマ☆JACK#6

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