人は妖精たち(自然)と宴を共にできるか? 〜映画「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」〜
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」(2014年)
アイルランド伝説に登場する想像上の生物”セルキー”を母親に、普通の人間を父親にもつ兄妹の物語。セルキーは海の中ではアザラシ、陸上では人間の姿をしている妖精の一種らしい。そして、この物語は多くの妖精たちが感情を奪われ”石”となってしまっている状況が前提となっている。
これら妖精は、おそらく”自然”あるいは”ありのままに生きていくこと”の象徴なのだろう。つまり、何者かに閉ざされてしまった”かけがえのない価値”を取り戻すために、奔走する子供たちが主人公の物語とも言える。
この話を”自然と人間の共生”という側面で捉えると、日本が誇る宮崎駿アニメとの共通点も多い。実際、敵役として登場するフクロウの魔女”マカ”は、「千と千尋の神隠し」に登場する湯婆婆や銭婆を彷彿とさせる。
ただ、宮崎駿作品が”文明の発達による自然破壊”といった、わりと物理的な問題を扱っているのに対し、本作はもっと観念的・精神的な次元でメッセージを投げかけているように思える。
そんな深遠なテーマをはらむ本作。この物語世界を具現化するアニメ画像が、またとてつもなく素晴らしい。どのカットを切り取っても極上の絵本ができてしまうのではと思えるほどのクオリティ。まるで繊細な影絵のような美しさを放っている。
ただ、決して写実的とは言えないその画像を、はたして90分も飽きずに観ていられるのだろうかと、鑑賞前は少し心配をしていた。ところが実際に観てみると、画像に降り注ぐやわらかな”光と影”が、実に情緒的でリアルな造形を作り出していることに気付く。見飽きるどころか、もうドップリとこの物語世界に引き込まれてしまった。
また、これら映像の織り成す効果は見た目の美しさに止まらない。アニメーションとしての動きやセリフ(声)も相まって、登場人物を非常に魅力的なものにしている。
特に幼少期の”お兄ちゃん”ベンの描写は印象的。小さな男の子って、ほんとこんな感じ。母親との関係性を究極なまでに表現した、この序盤のシーンだけで、男の子のいるお母さんは涙が止まらなくなるだろう。
激しい”喪失感”によって、まだ失われていない”大切なもの”までも手放さないように。そんなパーソナルなテーマにまで言及した本作は、実は大人こそ観るべきアニメなのかも知れない。
※↓出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!
【映画情報】「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」「花芯」〜広尾のごきげん空模様 #74〜
ソング・オブ・ザ・シー 海のうた (オリジナル・サウンドトラック)
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