イヂメぬかれるオトコたち。〜映画「ノック・ノック」&「白い肌の異常な夜」〜
「ノック・ノック」(2015年)
【あらすじ】
愛妻と二人の子供に囲まれ、絵に描いたような平和な家庭生活を送る主人公エヴァン。
休日に家族とビーチへ出かける予定だったが、急に舞い込んだ仕事をこなすため、エヴァンだけが留守番することに。
夜、(独身時代に愛聴していたであろう)趣味のハードロックなどを大音量でかけながら、仕事に没頭していたエヴァン。外は激しい雨が降りしきる。
すると急に玄関のドアを繰り返し”ノック”する音が。”こんな時間に、誰が??”
怪訝に思いながらドアを開けてみると、そこには雨でずぶ濡れになった美女二人が。
どうやら道に迷ってしまったらしい。
風邪を引いたのか、くしゃみなどし始める彼女たちを気遣って、タクシーを呼ぶまでの間、暖をとるようにと部屋に招き入れたエヴァン。
ところが、実に奔放でオープンな彼女たちは、次第に執拗にエヴァンを誘惑し始める。。。
【みどころ、など】
ゾンビものを除く、ゴアなホラーが苦手だ。特に”拷問系”と”カニバリズム系”が。
この映画の監督イーライ・ロスの代表作は「ホステル」や「グリーン・インフェルノ」。もう超絶ゴアで拷問&カニバリズム作品がお好みのよう(笑。
よって、彼の作品は本作が初鑑賞。
(この映画には血糊たっぷりの残虐なシーンは一切ない)
この監督、よほど”エエ格好しい”の偽善者が嫌いなのだろう。特に、”その自覚すら無い”連中が。ネット上などで見られる、前作(「グリーン・インフェルノ」)の鑑賞レビューで、”意識高い系”との言葉が頻発する理由がわかるような気がする。
そんなカッコつけたヤツらに中指立てて笑い飛ばしてる映画なんだろう、きっとこれは。
本作のジャンルを一言であらわすのは難しい。強いて言えば、スリラー色の強いブラック・コメディかと。少なくともホラーではない。演出上、観客を怖がらせようなどという意図を全く感じないからだ。逆に、ラストのフェイスブック(?)のクダリは爆笑してしまった(笑)。
劇中、(自分にとって)冷や汗が出るくらいイヤ〜なシーンだったのは、”彼女たち”が狂気を剥き出しにする後半ではない。序盤の、主人公が誘惑されていくトコロ。あそこでキアヌ・リーブスが見せてくれたのは、(自分含め)多くのオトコが”自ら”経験したであろう、愛欲を目の前にした際の”欺瞞”と”自己防衛”に満ちた醜悪な態度だ。
特にキアヌ演じる主人公が「オレ、昔DJやってたんだ〜云々、、」のセリフを発するクダリ。恥ずかしくて顔から火が出そうな気分に陥ってしまうのである(笑)。
そんな調子コキ野郎に鉄槌をくだす本作。
もしかしたらイーライ・ロスは、本気でオトナの為の”新たな寓話”を作り出そうとしているのかも知れない。
「白い肌の異常な夜」(1971年)
時は南北戦争の末期。
クリント・イーストウッド演じる負傷兵の主人公は、敵軍領地内で行き倒れてしまう。そして、たまたま”そこに”居合わせた少女に救われ、彼女の暮らす女子学園の寄宿舎に匿われるが。。。
子供の頃、エロ映画と勘違いしてこっそり深夜テレビで鑑賞した作品(笑)。
たしかにエロティックな雰囲気も醸してはいるが。。内容は”愛欲系サイコ・サスペンス”といった感じ(ゴア描写は殆どありません) 。
なんせ戦争によって男たちを兵役に駆り出された”女子学園”が舞台なだけに、期せずして現れた”若きイケメン主人公”は、彼女たちの欲望を喚起してしまう。。
ほどなく、若い女教師と恋仲になる主人公だが、それが(ミドルエイジの学園長を含む)周囲の嫉妬心を煽ることに。
更に、ちょいと奔放な女学生の誘惑に負けてしまった挙句、トラブルに巻き込まれた彼は階段から転げ落ち、足に大怪我を負う。
さあ、ここで主人公たるイケメン君の”命を救う”という大義名分の下、学園長は何とも恐ろしい治療法を実践する。これが、”オトコいぢめ映画”の金字塔(笑)「ミザリー」をも凌駕する程の凄まじい恐怖感に溢れたシーンなのだ。
当時、マカロニ・ウェスタンのヒーローやダーティハリーのイメージだったクリント・イーストウッドが、老若”女子”にいたぶられまくられるサマは、衝撃以外の何物でもなかった。そのショックたるや「ノック・ノック」を観たキアヌ・ファンの比ではない(笑)。
そして”最年少女子”にカメラが寄るラストカットは、ヒッチコックの「サイコ」を彷彿とさせる恐ろしさ。
監督ドン・シーゲル、主演クリント・イーストウッド、音楽ラロ・シフリンの組み合わせは、なんと意外なことに刑事アクションの名作「ダーティハリー」と同じ顔ぶれ。ジャンルは全く異なるが、主人公と対峙するのが”サイコパス”な要素を孕んでいる人物と考えれば、共通点もなくはない。
さらに、それまでヒロイックな主人公のイメージが強い”イケメン”役者をイヂメると言うコンセプトにおいては、前述の「ノック・ノック」と同じ韻を踏んだ作品とも言えるかも知れない。