映画にみる、ヨーロッパの”死生観”。「神様メール」&「素敵なサプライズ 〜ブリュッセルの奇妙な代理店〜」
「神様メール」(2015年)
制作国:ベルギー・フランス・ルクセンブルク合作
世の中の嫌なことって、全て一人(?)の意地の悪いゲスな神様のせいなんだよ、だからそいつを排除して、みんな幸せになっちゃおうぜぃ♫っていう、どこかシュールなファンタジー・コメディー。
原題は「新・新約聖書」。本作は、新約聖書をベースにした物語構造をもつ。
主人公の少女”エア”は、横暴な神(創造主)である父親に反発して彼の使うPC(笑)を操作し、全ての人類に彼(彼女)ら自身の余命年齢を知らせてしまうのだが。。
面白いのは、”知らせない”ことが創造主たる父親が考えた人類に対する”支配構造”であり、”知らせる”ことによって人々は”自律的に”良識ある行動を取り始めるといった物語の展開を見せる点だ。
少なくとも自分の死期を悟った人類に、意外や暴虐無尽な態度を取る輩は出てこない。これは”性善説”に基づいた価値観に基づくものと考えられる。
おそらく、本作で描かれる創造主(父親)は原理主義的で封建主義的な思想の象徴であり、娘の”エア”は自由主義的、共和主義的な思想の象徴なのだろう。
この映画の制作国のひとつであり物語の舞台でもある”ベルギー”は、世界で数少ない”安楽死”を合法化している国のひとつ。この法律が前述の思想や価値観がベースに成立していると考えると、異国の我われには興味深い。
要は”人間たるもの、自らの命をコントロールする<権利>も<能力>も持ち合わせている筈だ”との考えが、本作に見え隠れしている気がしてならないのだ。
ただ、小難しいことを考えずとも、ジャコ・バン・ドルマル(監督・脚本)の美的価値観とか、”笑い”の琴線みたいものが垣間見えるようで楽しかった。クスッと笑えるような描写や、いちいち可愛いキャラなども登場して、ハマる人はハマるんじゃないかなと。また、薬味代わりに(?)少々ブラックな要素も挿入していて、お子様ランチ化を防いでいる。
スタッフは全く違うのだが、「アメリ」と、どこか似た世界観というか物語世界だなっという印象も。フランス語圏の人がもつ共通の感性ってあるのかも知れない。
「素敵なサプライズ〜ブリュッセルの奇妙な代理店」(2015年)
制作国:オランダ
たしかに面白かったし、エンターテイメント作品として楽しめたのだが、
オチが、、ちょっと私には受け入れられなかった。価値観というか、”死生観”が異なるのだろう。
登場人物は、皆よく描かれていて魅力的。
ストーリーもスリリングな展開の連続で、終始飽きさせない。
でもラストが、、、
劇中、”奇妙な代理店”の支配人が発するこんなセリフがある。「このビジネスは、いづれ合法化する、、云々」。。(※この代理店はベルギーのブリュッセルにあるという設定。制作国のオランダも”安楽死”は合法。)
きっと、この言葉に納得いくか否かが、この映画を愛せるかどうかの別れ目かと。
これは”安楽死”が合法であるベルギー、オランダならではの価値観に基づくものであろう。
自らの”死”を選択する権利を持った”市民”。
この価値観を拡大解釈したとき、それが”死にゆく者の意思”であれば、”他殺”も倫理的に”是”ではないかとの考えに行き着く可能性もある。”いい”か”悪い”かは別にしても、そんな思想がこの物語の根底にあることだけは、理解した上で鑑賞した方がいいのかも知れない。(※なお、医師による”積極的安楽死”はベルギー、オランダ両国とも法的に認められている。)
(上記の議論は傍に置いておくにしても、)主人公の二人が惹かれ合うシークエンスは、わざとらしさがなく説得力もあってよかった。
特に浜辺でふたりが踊るシーン!
なんとも愛らしくて、トキメキがあって、邦題どおり”素敵”なシーンだった。
※↓出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!