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できれば映画に浸っていたい。。

鑑賞した映画のレビューや解説を勝手気ままに書いていきます。

失くして初めて気づく想い。 映画「シェルタリング・スカイ」と「永い言い訳」について

シェルタリング・スカイ」(1990年)

監督:ベルナルド・ベルトルッチ

脚本:ポール・ボウルズ(原作者)

   ベルナルド・ベルトルッチ

   マーク・ペプロー

撮影:ヴィットリオ・ストラーロ

音楽:坂本龍一

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【あらすじ】

結婚して10年になるポート(夫)とキット(妻)。倦怠期を迎えたふたりの気持ちは、離れかけていた。そんな状況を打破するために、ふたりはモロッコへの旅行に赴く。共通の友人である男性タナーと共に。

 

ところが、現地に着くなりポートは地元の売春婦と、キットは同行していたタナーと関係を持ってしまい、却ってギクシャクとしてしまう。

今度こそ、夫婦関係の修復を図ろうとするポートは、タナーを妻から引き離し、キットと二人きりで旅を続けることにする。

 

しかし不幸なことに、道中でポートは腸チフスに感染してしまう。高熱に犯され日に日に衰弱していくポート。そんな夫を献身的に看病するキット。ふたりの心は再び近づき始めるのだが。。

キットの努力も虚しくポートの命は尽き果ててしまう。激しい喪失感に苛まれたキットは夫を弔うこともできずに、砂漠を彷徨い始めるのだった。

そして身も心もボロボロになりかけたキットは、地元のキャラバンを率いる若いアラブ人青年と出逢うが、、、

 


The Sheltering Sky (1990) Official Trailer - Debra Winger, John Malkovich Movie HD

 

【みどころ、解説】

監督、撮影、音楽、「ラスト・エンペラー」を手がけた主要スタッフが再び手を組んで、当時話題となった作品。

まるでドキュメンタリーのごとく、モロッコの情景や現地の人々の営みが丁寧に捉えられた映像。これらの描写が、激しい喪失感によって自分を見失っていく”キット”の心情を浮き彫りにしていく。

 

終盤で原作者のポール・ボウルズ自身が現れ、語るクダリがある。

なにげない一瞬が、じつはかけがえのない人生の1ページなのだと。

壮絶で不遇な運命の展開こそが、このきらめきに気づかせてくれるという皮肉。

失われて初めて気づく自らの”想い”が深ければ深いほど、そこから溢れ出る切なさは大きい。


ポートとキットがサイクリングで赴く高台。そこで交わされるラブシーンが、その後の運命を暗示するようで哀しく、特に印象的。

ポートを演じるジョン・マルコヴィッチの、どこか明後日の方向をトロンと眺めるような眼差しが、彼のやるせない感情を象徴しているかのよう。そもそも、何故ふたりの関係性がこうなったのか。その点について、本編で語られることは一切ない。

きっと、何かはっきりとした出来事があったわけではないのだろう。経年劣化が人の感情にまつわる常だとしたら、この物語は誰にでも起こりうる事を描いていることになる。

 

坂本龍一の手によるテーマ音楽も忘れられない。あの印象的なメロディが、観るものの心を静かに揺さぶる。
映画音楽は、観ているときの演出効果だけではなく、後にその物語を思い起こさせる為の装置であることにも、また気づかされる作品でもある。

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永い言い訳」(2016年)

監督・脚本・原作:西川美和

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映画レビュー『永い言い訳』 『シェルタリング・スカイ』広尾のシネマ☆JACK#3

 

【あらすじ】

主人公の衣笠幸夫(本木雅弘)は”津村啓”のペンネームで小説を執筆する”タレント”作家。美容院を営む実業家の妻、夏子(深津絵里)とふたりで暮らしている。

幸夫の妻に対する気持ちは冷めていた。彼女は”津村啓”の無名時代を経済的に支えていた時期があり、それが主人公にとっての”目の背けたくなるような過去”を象徴するかのように、(理不尽にも)彼女への嫌悪感を煽っていた。

 

夏子は高校時代からの親友”大宮ゆき”と高速バスで旅行に出かける。しかし不幸にも旅先への途上で事故に遭い、親友と共に亡くなってしまう。

事故当時、幸夫は自宅で愛人との情事に耽っていた。彼は妻の訃報を聞いても何も感じることができない。

有名人であるが故、マスコミ向けに悲しむ遺族を演じながらも、自分の気持ちを整理できない虚しさが、日増しに彼を苦しめていく。

 

そんなある日、事故を起こしたバス会社が主催した”遺族説明会”で、妻の親友”ゆき”の夫”大宮陽一”(竹原ピストル)と出会う。実は、夏子は大宮家と親しく交流していた。陽一は「亡き妻の話ができるのは幸夫くんだけだ」と、初対面ながら親しげにしてくる。幸夫と違い、妻を失った悲しみに暮れていた陽一には、ふたりの幼い子供がいる。長距離トラックの運転手を務める彼だけでは、これまでのように子供達の面倒を見ることができない。長兄の”真平”はそれまでの塾通い=中学受験を諦めようとしていた。

 

それを知った幸夫は”思いつき”かのように、陽一の留守中に子供達の面倒を見ることを買って出る。

それまで人の世話をすることなどなかった幸夫にとって、大宮家との交流は”妻をないがしろ”にしてきた自分自身に対しての免罪符でもあった。

そして次第に、幸夫とって、子供たちと過ごす時間が”掛け替えのないもの”になっていくのだが、、

 


映画『永い言い訳』本予告

【みどころ、解説】

本木雅弘が演じる主人公”幸夫”は、まるでコドモ。自分本位にしか人との関係性が築けない。じゃ、この人はゲスか?というと、そんなことはとても言えない。

そこには、もうひとりの自分がいたからだ。


中盤、海辺で陽一くんにかけた幸夫の言葉。それは即ち、”幸夫”自身にこそかけられるべきものだ。その後、公園カフェでかけた言葉も。そして終盤、ある場所へ向かう列車内で、幸夫が真平くんに説いた言葉もしかり。


幸夫にとって大宮家の子供たちとの生活は、亡き妻の遺した”彼女自身の吐息”のようなもの。そこには彼女の想いが詰まっていた。

主人公は、何かに気付いたわけでも、変化したわけでもない。

今は灰となってしまった”妻・夏子の想い”を目の当たりにしたのだ。

 

本作は、迷える中年オトコの再生物語ではない。

まさに、彼の”永い言い訳”を描いた物語と言える。 

永い言い訳

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永い言い訳 (文春文庫)

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