できれば映画に浸っていたい。。

鑑賞した映画のレビューや解説を勝手気ままに書いていきます。

ニキータ(1990年)

f:id:vegamacjp:20160920231354j:plain

物語の世界において、なんとも不条理な運命に翻弄され、もがく主人公の有り様は実に切なく哀しく、そして美しいものだ。

 

この映画の主人公、ニキータと名乗るその少女は、冒頭で情状酌量の余地が無いほどの重大な罪を犯して警察に捕らえられる。
それも、はずみでやってしまったようなレベルではない。狂犬のごとき粗暴なキャラクターの輩として彼女はスクリーンに登場する。

f:id:vegamacjp:20160920231805j:plain

そんな主人公ニキータは、彼女の天性ともいえる”殺傷能力”に目をつけた政府に戸籍を抹消され、直轄の暗殺者に仕立て上げられる。

 

冒頭で警察に捕まらなくとも、いずれは掃き溜めのような環境で犬死にしていてもおかしくなかった人物だけに、この状況は必ずしも不幸とは言えない。

f:id:vegamacjp:20160920231848j:plain

 ところが、”闇の”暗殺者学校を卒業し、シャバでの生活を始めた彼女は、たまたまスーパー出会ったレジ係の青年と恋に落ちる。そしてこの恋物語こそが、前述した環境を実に”不条理なもの”へと変化させてしまう。。

 


ニキータ

 

彼女の恐ろしい秘密を察した彼氏。その気遣いと愛情に満ちた言葉に、壁一枚隔てた向こう側で銃を握りしめながらも、思わず涙を拭うニキータの姿が忘れられない。

 f:id:vegamacjp:20160920231924j:plain

自らの深い感情と運命に翻弄され、もがき苦しむそのサマは、フランス映画史に大きな足跡を残すほどの”美しさと切なさに”に満ち溢れている。

 

ニキータ (字幕版)

ニキータ (字幕版)

 

 

映画「ニュースの真相」で魅せる”レオニダス王”的 心意気。

「ニュースの真相」(2016年)

 興奮した!凄い面白い!!もしかしたら、(現時点での)本年マイベストワンかも。

2004年、CBSの番組がブチまけたジョージ・W・ブッシュ米大統領の軍歴詐称(?)疑惑報道。本作は、その”スクープ自体の真偽”が疑惑となってしまったという実話を描いたものだ。

f:id:vegamacjp:20160919151735j:plain


映画『ニュースの真相』予告篇<ロングVer.>

 

正直言って、本件における報道の真相などには、あまり興味がない。むしろジャーナリズムを生業にする人が、”正義”や”中立性”を高らかに謳うサマに遭遇すると”欺瞞”すら感じてしまう。

そんなことよりも、主人公の女性プロデューサーが醸す”哀切感が堪らないのだ。ケイト・ブランシェット演じる、その”敗軍の将”には、確固たる”物語”が存在する。(この”物語”は”仮説”とか”前提”と言い換えてもよいかも知れない。)人は常々”物語”に魅了されるもの。”報道”とはいえ、営利目的のメディアに乗っかる時点で、”物語”が要求されるのだと思う。したがって、彼女の仕事におけるスタンスは健全なのだ。

f:id:vegamacjp:20160919151759j:plain

 

終盤、彼女が自らのプライドを賭けた”物語”を武器に、内部調査委員会の連中と対峙する姿は、観ているこちら側の心を鷲掴みにして離さない。まるで「300(スリーハンドレッド)」の主人公がペルシア軍と向き合うクライマックス・シーンを彷彿とさせる勢いなのだ。

f:id:vegamacjp:20160919151821j:plain

 


『300<スリーハンドレッド>』予告編

 

キャスター役のロバート・レッドフォードもまた素晴らしい。彼がまるで主人公の労をねぎらうように、カメラに向けて語りかけるシーン。これを観て涙腺が暴発する観客も多いのではないだろうか。

f:id:vegamacjp:20160919151842j:plain

 

※出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!


【映画情報】「ニュースの真相」「300<スリーハンドレッド>」「アンフレンデッド」〜広尾のごきげん空模様 #72〜

 

映画とナチス・ドイツ。。

「栄光のランナー 1936ベルリン」(2016年)

ナチス政権下のベルリンで開催された1936年のオリンピック。これは、その大会で前人未踏の四冠を果たしたアメリカ代表ランナー、ジェシー・オーエンスの半生を描いた伝記映画だ。


映画『栄光のランナー/1936ベルリン』予告編

 

ナチスによる”ユダヤ人差別”とアメリカ国内における”黒人差別”。物語はこの二つの人種差別を背景に、ベルリンオリンピック開催をめぐる”主人公ジェシーの葛藤”と、”アメリカ・ドイツ両国間での駆け引き”の二つを軸として展開していく。

f:id:vegamacjp:20160919144604j:plain

 

本作最大の特長は、主人公ジェシージェレミー・アイアンズ演じるUSOC委員を”二つの中心点”とした、登場人物一対一の”関わり”にフォーカスしている点。
前者の”それ”は、時の体制や社会的風潮にとらわれない個人間の友情や真摯なやり取りが爽やかで、熱い感動を呼ぶ。一方で、後者は善悪の境界線が揺らめく、実にビターでリアルな駆け引きに満ちている。

f:id:vegamacjp:20160919144618j:plain

この二つの異なる視点がコントラストとなって、この映画が極めてリアルなメッセージ性を帯びる結果となっているのだ。”キレイごと”では済まない世の中だからこそ、”キレイごと”を諦めない想いが胸に迫る。

 

終始、米国目線で描かれた”体”の作品だが、実はアメリカ資本は入っていない。フランス、ドイツ、カナダ合作の映画となっているのも面白い。

 

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」(2014年)

実話を基にした本作は、パリ郊外の高校が舞台。落ちこぼれクラスの担当となった女教師ゲゲンは、相変わらずの”やんちゃ”ぶりを発揮する生徒たちに、ある提案をする。”ナチスホロコースト”をテーマに歴史コンクールへ参加することを。

f:id:vegamacjp:20160919145327j:plain

この物語は、コンクール出場をきっかけに再生していく生徒たちを描いているだけではない。むしろ、それはこの映画が伝えんとするメッセージの切り口に過ぎないと言えるだろう。

 


『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』予告 8月6日公開

 

信じられないような凄惨な”歴史的事実”を経て得た教訓でさえも、時の経過とともに”風化”していくという現実。それでもなお、我々は粘り強く”その教訓”を語り継ぐことを諦めていけない。
これが、この映画のメインテーマでありメッセージだ。

f:id:vegamacjp:20160919145400j:plain

冒頭のシークエンスは実にショッキング。これがアメリカに”自由の女神”を寄贈した国の教育現場なのか、目と耳を疑ってしまう。ここで、この映画のただならぬ有り様を観客に予感させるのだ。

 

主人公ゲゲンを演じたアリアンヌ・アスカリッド。彼女の抑えまくった演技が素晴らしい。多くの問題児を抱えたクラスを”コンクール参加”に向かわせたのは”弁舌さわやかな説得”でもなく、”あざとい策略”でもない。ただ粘り強くコトの本質を伝え続けることと、相手のコトバに耳を傾け続けること。気が遠くなるような忍耐と実践の繰り返しを以ってしか、周囲を動かすことはできないことを主人公の地味なキャラクターが教えてくれる。

f:id:vegamacjp:20160919145426j:plain

そして子供たちの教育現場こそが、近い将来の世界の縮図であること、だからこそ、学校教育の場が掛け替えの無いものだということを、この映画は静かに示唆している。

 

※出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!


【映画情報】「栄光のランナー 1936ベルリン」「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」「ゴーストバスターズ」〜広尾のごきげん空模様 #73〜

映画「LOVE【3D】」に観る、”愛しさ”と”切なさ”

「LOVE【3D】」(2015年)


映画「LOVE」ショートレビュー

【あらすじ】

主人公”マーフィー”は、妻の”オミ”と未だ幼い息子との三人暮らし。

オミが息子の面倒に明け暮れる日々のためか、夫婦間に流れる倦怠感がマーフィーの心に暗い影を落としている。

元旦の朝、マーフィーは昨夜の”クスリ”の余韻が未だ残る最低な気分で目醒める。

そこへ、元カノ”エレクトラ”の母親から、一本の電話が。 

f:id:vegamacjp:20160919143434j:plain

エレクトラが失踪してしまったらしい。

彼女と連絡が取れなくなった母親は、半ば取り乱して元カレであるマーフィーに連絡をよこしたのだ。

この電話をきっかけに、マーフィーはエレクトラとの激しい愛欲に満ちた日々を回想し始めるのだった。。


映画 LOVE 【3D】  ギャスパー・ノエ監督最新作 4月1日(金)公開!

 

【みどころ】

全体の7割〜8割が濃厚なベッドシーン。かなりエロい(笑)。

はっきり言ってポルノなのだが、

全編にわたって深い哀切感に満ち溢れた恋愛映画でもある。

 

特に3人の絡みのところが印象的。

エロいながらも、バックで流れるギターソロの情感が溢れてて、、

ここを味わえば味わうほど、マーフィーの激しい”喪失感”、”絶望感”に感情移入できる。(※ギターソロはFunkadelicの”Maggot Brain” )

f:id:vegamacjp:20160919143534j:plain

劇場公開時は3Dだったこともあり、ふたりがお互いを求め合うサマが”強烈な臨場感”をもって観る者の脳髄に飛び込んでくる。

これは、主人公の痛々しい”欠落感”や”失望感”を一緒に体感する映画。

もはや、私にとっては泣ける一本だ。

 

【早期購入特典あり】LOVE(劇場版B2ポスター付き) [DVD]
 

 

 

MAGGOT BRAIN

MAGGOT BRAIN

 

 

アイルランド映画における若者たち。

「ブルックリン」(2015年)

f:id:vegamacjp:20160919141306j:plain

この映画も、先ずは映像が印象的。40年代〜50年代の”アメリカ製ポスター”から飛び出して来たかのような、パステル調でクラシカルな色彩。衣装も含め、緑と赤を強調した色合いが「アメリ」とかを彷彿とさせる。

 

 内容の方は、、ピュアピュアなラブストーリーとして魅せる展開から始まる。祖国アイルランドでは、なかなか”チャンス”を見出せない主人公エイリッシュ。そんな彼女の”アメリカ行き”をセッティングしてくれた姉との愛。そしてニューヨークで出逢ったイタリア系青年との恋愛。。
特に前半の流れの中では、女子寮での”人間関係”の描写が素晴らしい。エイリッシュが次第に、アメリカ生活に溶け込み、ステップアップしていく様子を推し量る”尺度”となっている。

 


『ブルックリン』11.16先行デジタル配信/12.2ブルーレイ&DVDリリース

 

ところが後半、物語はそう単純には進行しない。。ワケあって主人公がアイルランドに一時帰国するあたりから雲行きがあやしく。
さぁここで、満を持して登場のドーナル・グリーソン。彼の持ち味たる”ハニカミ笑顔”が、ここまで大事にしていた”魔法”を粉々に打ち砕く破壊力をみせるとは(笑)。

 

 元々、物語の”背徳”的な展開は大好物のクセに、もう前半で”ピュアピュアな魔法”にかかってしまってる自分は「あ、あかんて!そっちいったら!」と心の中で主人公にツッコミ入れてしまう始末(笑)。

 

たぶん、女子なら号泣必至の終盤。(自分含め)多くの男性にとっては、ここでの主人公の心情を理解するのは難しいだろう。(まぁさすがに、エリック・ロメールが生きてたら、彼は理解したでしょうが 笑)
 そういう意味で、カップルが映画デートにチョイスするには微妙な一本(いや、マジで)。お一人様か、同性のお友達と一緒に鑑賞するのが無難かと。

  

「シング・ストリート 未来へのうた」(2016年)

f:id:vegamacjp:20160919141623j:plain

あまずっぱぁ〜!
もう年代的にドンピシャすぎて、もはや客観的にはこの映画を論じることなどできない(笑)。
いきなり”リオ♫”だしね。ハマりましたよ。そんで、部屋で”マン・イーター”流して踊るとか。もう”ありえ過ぎて”ヤバい(笑)。

 

兄貴のキャラも素晴らしい。しかしモデルがいなければ、なかなかああいうリアルなキャラは作れないのでは。監督のジョン・カーニーには、お兄さんがいるのだろうか?

あと、キャラ的に立ってたのは、マネージャー役の子。とにかく顔がイイ。イケメンではないが味がある。矯正ワイヤーで締め上げた歯ゆえにか(?)、ちゃんと閉じれない口がチャームポイント(笑)。関西に住んだことがない人には解ってもらえないかもだが、「ケンミンの焼きビーフン」のCMに出たら必ずやハマるであろう佇まいなのだ(笑)。

 


『シング・ストリート 未来へのうた』予告編

 

主人公のボクもなかなかのイケメン。”息子にしてよし”、”弟にしてよし”、”彼氏にしてよし”、の”三方よし”で(笑)、ほぼ全世代の女子の支持を得るだろう。
また、「小さな恋のメロディ・青春編(笑)」とも言うべき、物語の締め方も好印象な一本。

 

最後に、、
ドンピシャ世代(昭和40年代生まれくらい)の皆さま限定で、この映画の正しい(?)観方をご提案します。

1回目: 映画館で恥ずかしそうにニヤニヤして観る。
2回目: DVDが出たら、ひとり号泣しながら観る。
3回目: 同世代の気のおけない友達と酒飲みながら、ワイワイ観る。 

シング・ストリート 未来へのうた

シング・ストリート 未来へのうた

 

 

※↓出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!


【映画情報】「ブルックリン」、「シング・ストリート 未来へのうた」〜広尾のごきげん空模様 #68〜

生き様にこだわるオトコたち、その明暗。。「スティーヴ・マックィーン その男とル・マン」&「海よりもまだ深く」

スティーヴ・マックィーン その男とル・マン」(2015年)

f:id:vegamacjp:20160919135620j:plain

往年の大アクション・スター、スティーブ・マックィーン入魂の一作「栄光のル・マン」制作にまつわるエピソードをとおして、彼の半生を追ったドキュメント。
この作品は、カーレースに魅了された”彼自身の思い入れ”が強いあまり、それまでの成功物語に水を差すような大きな挫折をもたらした。

 

マックィーンは、とにかくカー・レースそのものを、レーサー目線でリアルに表現する映画を作りたかったらしい。
今なら、ドラマ部分を排してレースのリアリズムをひたすら追求する映画の制作も(当時ほどの難はなく)実現しただろう。マックィーン並のビッグネームがあるならば。
ただ当時はそうはいかなかった。おそらく、(恋愛とか、ヒューマンドラマありき、みたいな)強固なハリウッド・スタイルが、彼の行く手を阻んだのでは。

 


『スティーヴ・マックィーン その男とル・マン』予告編

 

また、破天荒で一本気な性格も災いしたのかも知れない。そういえば、ブルース・リーにも相通じるような。。(ちなみにマックィーンはリーの弟子だったらしい 笑)

ともあれ、映画は完成し公開された。どれほど自分で満足できるものだったかは判らないが。。終盤には、マックィーンの人情味溢れるエピソードも紹介され、涙を誘う。
彼がいかにカーレースを愛し、レーサーをリスペクトしていたかを感じることができる一本。 

 

 

栄光のル・マン [DVD]

栄光のル・マン [DVD]

 

 

「海よりもまだ深く」(2016年)

f:id:vegamacjp:20160919140058j:plain

一本の映画の中に出てくる、”笑い”の頻度だけで言えば、この映画は間違いなく”コメディ”のレベル。それくらい笑った。でも、どう考えても”コメディ”ではない。
なぜだろうか?

 

きっと、それらの”笑い”がリアルな日常の”可笑しさ”をそのまま切り出して見せてくれているからだろう。まるで、とてつもなく手のかかる面倒くさい作業を経て、我々の生活を編集し直したんじゃないかってくらいの印象。
さらには、制作者の描かんとするテーマが、極めてビターでリアルな人生についてだから、なのかも知れない。

 


海よりもまだ深く 本予告

 

終盤、樹木希林演じる老年の未亡人と、阿部寛演じるうだつのあがらない中年、それぞれが自分の子に発する決め台詞がある。
実は、この二つのセリフのベースにある価値観は”真逆”。それらを両立させて生きていくのは到底不可能なのだ。

 

この映画が素敵なのは、単視眼的な価値観に依っていない点。但し少なくとも、どちらを拾い、どちらを捨てたのか、自覚することの大切さを説いてるのではないだろうか。
自分の人生を悔いたり、他人のせいにしたりしなくてすむように。

悲しい涙とうれしい涙は、それぞれ味が違うらしい。本作を鑑賞して溢れる涙は、一体どんな味がするのだろうか。

 

海よりもまだ深く [DVD]

海よりもまだ深く [DVD]

 

  

海よりもまだ深く (幻冬舎文庫)

海よりもまだ深く (幻冬舎文庫)

 

  

※↓出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!


【映画情報】「スティーヴ・マックイーン その男とル・マン」「海よりもまだ深く」〜広尾のごきげん空模様 #61〜

 

知らない、ふたり(2016年)

この映画の登場人物って、みんな少しずつ変わり者(笑。

その人間的ズレみたいなのが独特のユーモアやリアリティを醸してるような。

特に青柳文子演じる小風の”気持ち悪くない変人ぶり”が印象的。

f:id:vegamacjp:20160919125905j:plain

片想いの連鎖のような、ちょっと風変わりな恋愛感情の機微を軸に物語は進む。

一見、群像劇のようで、でもやはり”ふたり”の物語なのだ。

 監督・脚本は「こっぴどい猫」(第12回トランシルヴァニア国際映画祭 で最優秀監督賞受賞)、「サッドティー」などでメガホンをとった日本映画界の若手ホープ、今泉力哉氏。

 

※出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!


【映画情報】「知らない、ふたり」「ヘイトフル・エイト」〜広尾のごきげん空模様 #75〜

知らない、ふたり

知らない、ふたり