映画とナチス・ドイツ。。
「栄光のランナー 1936ベルリン」(2016年)
ナチス政権下のベルリンで開催された1936年のオリンピック。これは、その大会で前人未踏の四冠を果たしたアメリカ代表ランナー、ジェシー・オーエンスの半生を描いた伝記映画だ。
ナチスによる”ユダヤ人差別”とアメリカ国内における”黒人差別”。物語はこの二つの人種差別を背景に、ベルリンオリンピック開催をめぐる”主人公ジェシーの葛藤”と、”アメリカ・ドイツ両国間での駆け引き”の二つを軸として展開していく。
本作最大の特長は、主人公ジェシーとジェレミー・アイアンズ演じるUSOC委員を”二つの中心点”とした、登場人物一対一の”関わり”にフォーカスしている点。
前者の”それ”は、時の体制や社会的風潮にとらわれない個人間の友情や真摯なやり取りが爽やかで、熱い感動を呼ぶ。一方で、後者は善悪の境界線が揺らめく、実にビターでリアルな駆け引きに満ちている。
この二つの異なる視点がコントラストとなって、この映画が極めてリアルなメッセージ性を帯びる結果となっているのだ。”キレイごと”では済まない世の中だからこそ、”キレイごと”を諦めない想いが胸に迫る。
終始、米国目線で描かれた”体”の作品だが、実はアメリカ資本は入っていない。フランス、ドイツ、カナダ合作の映画となっているのも面白い。
「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」(2014年)
実話を基にした本作は、パリ郊外の高校が舞台。落ちこぼれクラスの担当となった女教師ゲゲンは、相変わらずの”やんちゃ”ぶりを発揮する生徒たちに、ある提案をする。”ナチスのホロコースト”をテーマに歴史コンクールへ参加することを。
この物語は、コンクール出場をきっかけに再生していく生徒たちを描いているだけではない。むしろ、それはこの映画が伝えんとするメッセージの切り口に過ぎないと言えるだろう。
信じられないような凄惨な”歴史的事実”を経て得た教訓でさえも、時の経過とともに”風化”していくという現実。それでもなお、我々は粘り強く”その教訓”を語り継ぐことを諦めていけない。
これが、この映画のメインテーマでありメッセージだ。
冒頭のシークエンスは実にショッキング。これがアメリカに”自由の女神”を寄贈した国の教育現場なのか、目と耳を疑ってしまう。ここで、この映画のただならぬ有り様を観客に予感させるのだ。
主人公ゲゲンを演じたアリアンヌ・アスカリッド。彼女の抑えまくった演技が素晴らしい。多くの問題児を抱えたクラスを”コンクール参加”に向かわせたのは”弁舌さわやかな説得”でもなく、”あざとい策略”でもない。ただ粘り強くコトの本質を伝え続けることと、相手のコトバに耳を傾け続けること。気が遠くなるような忍耐と実践の繰り返しを以ってしか、周囲を動かすことはできないことを主人公の地味なキャラクターが教えてくれる。
そして子供たちの教育現場こそが、近い将来の世界の縮図であること、だからこそ、学校教育の場が掛け替えの無いものだということを、この映画は静かに示唆している。
※出演しているネット番組でも本作を紹介させていただきました!
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【映画情報】「栄光のランナー 1936ベルリン」「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」「ゴーストバスターズ」〜広尾のごきげん空模様 #73〜