罪悪感なき者への深き怨恨(1) 映画『ザ・ギフト』について
※動画はネタバレなしです!
そのジャンルに関わらず、”贖罪(しょくざい)”がテーマとなっている映画は実に多い。それは言語や文化的な背景の如何に関わらず、世界中のあらゆる人間の価値観や言動に影響を及ぼす共通の”意識”と言えるからではないだろうか。
それだけ人は(それが”法”に触れるか否かは別にして)、過去の自らの言動や行動に何らかの”罪悪感”を感じているものなのだろう。
しょくざい
【贖罪】
犠牲や代償を捧げて罪をあがなうこと。特にキリスト教で、キリストが十字架上の死によって、全人類を神に対する罪の状態からあがなった行為。<※google辞書より>
とりわけ、
<自分が全く自覚をしないまま、他人に対して多大な心理的・物理的損害を及ぼすような”罪”を犯していた。そして、その被害者は決してそのことを忘れていない、、、>
などというシチュエーションは、多少なりとも”贖罪”の意識を持つ人間に対して、この上ない恐怖を与えるに違いない。
=========================
『ザ・ギフト』(2015年)
【あらすじ】
順調にキャリアを重ね、子供には未だ恵まれぬものの”経済的な豊かさ”を手に入れた夫婦。夫のさらなるキャリアアップを伴う転職で、彼らは転居先での新生活をスタートさせる。そして、そこは夫<サイモン>が育った故郷の街でもあった。
理想的な邸宅を手に入れた夫婦は、生活雑貨の買い出しのため訪れたショップで、たまたまサイモンの高校時代の同級生<ゴート>と出会う。25年ぶりの再会を喜びつつも、先を急ぐ夫婦はゴートに自宅の連絡先を渡して、その場を去った。
ある日、自宅前にゴートからの転居祝いを兼ねた”贈り物”として一本のワインが置かれていた。最初は素直に喜ぶ夫婦だったが、彼からの”贈り物”はその後も続いた。次第にその内容もエスカレートしていき、夫婦は困惑し始めるのだが。。
【感想・解説】
<ストーリーについて>
※半ネタバレ注意!ただし、これ読んでも映画は楽しめると思いますが(笑)
こういう、”贈り物”系スリラーは数多くあるため、如何に”捻るか”が作る側の腕の見せ所なのだろう。裏返せば、多くのネタが出尽くした感がある為、結構”レッドオーシャン”的な分野ではなかろうか。
そういう意味では、本作は隙間のピンポイントを突いた力作だと言える。その結末(つまり、この物語の有り様)は、予測ができなかったし、ホラー映画ばりのビックリ箱的な”怖がらせ”が散りばめられていて、映画の進行を見届けるのが、恐ろしくなってくるような展開をみせる。
また物語設定の面においても、”ギフト”の贈り主が、その素性も含めて序盤からハッキリしている点が面白い。さらには、彼は決してサイコパスではないという点も。その仕込んだ罠が巧妙であればあるほど、彼の”頭脳的な資質”も相まって、その哀しみと怨恨の深さが浮き彫りになるというストーリー構造を為している。
結果的に、あえて物語設定の前提条件を絞り込んで臨んだことが、本作の勝因のひとつだと言えるのではないだろうか。
あえてツッコミを入れるとするなら、”イカれた輩”が複数いて、彼らがお互いに敵対している場合、恐怖も相殺されてしまうのでは、という点。言い換えれば、それが本作の”ホラー”ではない所以と言えるのかも。
ラスト、主人公を打ちのめしたのは赤ん坊の目ではない。もはや、父親など誰でもよいかのような空気を醸す妻<ロビン>の強い眼差しなのだ。
結局、しょうもないオトコどもを”消去”して、幼子とふたり再出発を図るシングルマザーの背中を押す物語だとしたら、(特に欧米では)多くのキャリア・ウーマンの共感を得る一作なのかも知れない。
<スタッフ、キャストについて>
夫・サイモンの同窓生ゴートを演じるジョエル・エドガートンによる監督デビュー作。脚本も彼自身の執筆による渾身の一作といえる。
サイモン役は、ジェイソン・ベイトマン。映画監督の父と女優の姉を持つ。近作はコメディ映画への出演が多く、ディズニー・アニメ「ズートピア」ではキツネのニック・ワイルド役で声の出演をしている。
妻のロビン役はウッディ・アレン監督「それでも恋するバルセロナ」で知的ながらも禁断の恋に落ちてしまう主人公を演じたレベッカ・ホール。彼女独特の知性を醸すセクシーさが、自身のキャリアを犠牲にしてきた妻ロビンの、”どこか抑圧された感情”を表現していて素晴らしい。